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『'''正チヤンの冒険'''』（'''しょうちゃんのぼうけん'''）は、画・東風人（[[樺島勝一]]）と作（文）・織田小星（[[織田信恒]]）の作った新聞[[4コマ漫画]]。[[大正|大正時代]]に『[[アサヒグラフ]]』や『[[朝日新聞]]』などで、タイトルを変更しながら連載された。初め無記名の連載だったが、作者名が記されたのは、1924年（大正13年）3⽉1⽇付の紙面からである<ref>竹内オサム「「正チヤンの冒険」余談」『ビランジ』19号　2007　ｐ87</ref>。[[主人公]]の[[少年]]、「正チャン」と相棒の「[[リス]]」による様々な[[冒険]]の旅を描き、[[西洋]]的なセンスにあふれた絵柄と[[童話]]を思わせる[[ファンタジー|幻想]]的な物語で、当時の読者に大好評を博した<ref name="syochan">日外アソシエーツ発行『漫画家人名事典』（2003年2月）ISBN 9784816917608、P89-90</ref>。椛島が[[1965年]]没、織田が[[1967年]]没であり、[[2016年]]の[[著作権法]]改正の影響を受けずに現在は[[パブリックドメイン]]となっている。

== 出版 ==
最初は『正チヤンのばうけん』のタイトルで、『アサヒグラフ』の[[1923年]]（大正12年）1月の創刊号から8月末の最終号まで連載された。『アサヒグラフ』が廃刊となってからは『朝日新聞』の朝刊で連載されることとなり、同年の10月20日付から『正チヤンノバウケン』『お伽 正チヤンノ冒険』『正チヤンの冒険』などと、数回タイトルを変更しながら連載された。[[1924年]]（大正13年）8月20日付で絵物語はとぎれるものの、8月21日付から8月28日付までは、小説形式の連載「すゞ蟲」が掲載された<ref>「正チヤンの冒険」余談2007　ｐ92</ref>。10月5日付から再び連載が始まり、翌年の10月31日付まで連載された。さらに[[1926年]]（大正15年）の2月12日付から5月18日付まで、『正チヤンのその後』が連載された。一方、再刊された『アサヒグラフ』でも、『水曜日の正ちやん』のタイトルで[[1924年]]（大正13年）3月12日号から8月27日号まで連載された。

1924年（大正13年）から[[1925年]]（大正14年）にかけて、朝日新聞社から全7巻の単行本（横長本、1巻64頁、4色刷）が刊行された。初版刊行日は以下の通り<ref>[https://www.library.city.hiroshima.jp/manga/collection/index.html 広島市まんが図書館]</ref>である。

* 壱の巻 - 1924年7月6日
* 貮の巻 - 1924年9月10日
* 参の巻 - 1924年10月25日
* 四の巻 - [[1925年]]1月10日
* 五の巻 - 1925年3月20日
* 六の巻 - 1925年6月15日
* 七の巻 - 1925年10月15日

またこれらの単行本とは異なる[[派生作品|関連作品]]も存在する。1926年（大正15年）には朝日新聞社から『正チヤンの其後』というタイトルの絵本（大型縦本、60頁）が書き下ろしで刊行された<ref>{{Cite web|和書|url=https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1717943/1 |title=織田小星作・樺島勝一画『正チヤンの其後』（東京朝日新聞社、1926）［国立国会図書館デジタルコレクション］ |accessdate=2020-01-08}}</ref>。これには正チャンやリスに加えて、「ドンキチ」という[[ドングリ]]の[[小人]]が登場する。さらに同年には金尾文淵堂から『正チャンとリス』という本が刊行されたが、これは樺島が[[表紙]]と[[扉絵]]を手掛け、収録された漫画は清水君吉が手掛けている。[[昭和]]以降も関連作品は登場し、[[1950年]]（昭和25年）と[[1951年]]（昭和26年）には[[講談社|大日本雄辯會講談社]]から『絵ものがたり　正ちゃんのぼうけん』として刊行された。

== 作風・形式 ==
連載時には、毎回4コマであったが、「アサヒグラフ」連載時から数回にわたって物語が継続する構成がとられた。10回前後が多いが、長いときでは23回に及ぶ連載もあった<ref>竹内オサム「「正チヤンの冒険」の変容過程－初出作品の検討と単行本化の問題－」『マンガ研究』11号　2007　ｐ46～48</ref>。それぞれのコマごとに、絵に加えてコマの外に縦書きで書かれたト書きが付き、コマの内部にセリフが書かれた尾付角型の吹き出しが用いられた。このスタイルは「それ以前にあった[[絵物語]]と近代マンガの中間的なスタイル」<ref>『正チャンの冒険』 p.132</ref>だと[[中条省平]]は指摘している。

漫画評論家の[[竹内オサム]]は「簡潔な絵柄と大正の童心芸術運動の雰囲気を接ぎ木」<ref name="a">『正チャンの冒険』 p.136</ref>した作風だと指摘する。主人公自身も読者対象である子供に広くアピールすることとなり、動物をお供にする設定も当時の時代背景を考えると新鮮であったと指摘する。

また、物語には神秘の場所として、遠い異国と日本の森が設定されている。そのふたつの空間は、戦後の書き直しの単行本２冊に二分化されている<ref>「「正チヤンの冒険」の変容過程」　ｐ52、ｐ57</ref>。

== 背景 ==
本作が子供向けの西洋の漫画の影響を受けていることは、関係者の数々の証言から明らかになっている。<ref>『正チャンの冒険』 p.133</ref>『アサヒグラフ』の編集長であった[[鈴木文史朗]]は、イギリスの新聞『[[デイリー・ミラー]]』で連載されていたペンギン鳥を主人公とした漫画をモデルにしたと書き残している。その作品はペインの「ビップ、スキークとウィルフレッド」ではないかと推定されている<ref>竹内オサム『子どもマンガの巨人たち』三一書房　1995　ｐ71</ref>。登場するペンギンをリスに変更して子供を加えた物語漫画の連載を構想した。そして、『アサヒグラフ』の子供向けページ全体の編集を担当することになった織田が原作を担当し、『朝日新聞』の編集部員に招聘された樺島が作画を担当した。

『アサヒグラフ』の編集に携わる前は日本銀行員としてヨーロッパに渡っていた織田だが、現地で様々な児童文化に触れたことでそのような仕事に携わりたいと思うようになった。そして帰国してから[[巖谷小波]]に相談し、巌谷の同意を得て協力を得るために朝日新聞社に向かい、編集の仕事を行うようになった。

一方、当時の樺島は、雑誌や教科書などの表紙や口絵や挿絵を中心に活動していた。世間にはあまり知られていなかったものの、その実力を高く評価する者もいたことで朝日新聞社に招聘された。元々の絵柄は銅版画のような硬いものであったが、この作品では柔らかい絵柄を見せることとなる。<ref>『正チャンの冒険』 p.140-141</ref>

== 社会的な反響 ==
連載途中から主人公が頭にかぶることが増えた、大きなボンボンが頭上についた[[ニット帽|毛糸の帽子]]は「'''正チャン帽'''」と呼ばれ、子供たちの間で流行した<ref name="syochan" /><ref>{{Cite web|和書|title=「斜め上」は冨樫義博の『レベルE』が語源⁉ 辞書に載ったマンガ生まれの言葉たち {{!}} 集英社オンライン {{!}} 毎日が、あたらしい |url=https://shueisha.online/entertainment/37822 |website=shueisha.online |access-date=2023-05-14 |language=ja |date=2022.08.05 |editor=飯間浩明、山本大樹}}</ref>。

1925年1月には[[大阪市]]近辺のすべての「正チャン」と呼ばれる少年たちが、朝日新聞の大阪本社に無料で招待されて、大きな集会が開催された。そこでは食べ物が振舞われ、催し物が開かれ、帽子屋の連合から正ちゃん帽が贈られた。そんな子供たちの様子は写真に収められ、『朝日新聞』と『アサヒグラフ』で大きく紹介されることとなった。

この作品を原作とした舞台や映画も製作された。1924年10月1日から同月21日までの20日間、宝塚少女歌劇団（現・[[宝塚歌劇団]]）[[月組]]公演として[[宝塚大劇場]]で、演目『正ちやんの冒險』が、正ちゃん役：[[天津乙女]]、[[リス]]役：[[住江岸子]]、悪魔役：[[千早多津子]]、[[天女]]役：[[夢路すみ子]]で上演された他に、1926年には[[東亜キネマ]]によって白黒の[[無声映画]]が公開された。
<!--== 余談 ==
絵を書いた樺島勝一は『[[ジョジョの奇妙な冒険]]』を担当した集英社ジャンプ編集者（現新書編集長）椛島良介の父（祖父？）か。曖昧な内容なのでコメントアウト。-->

== 脚注 ==
<references />

== 参考文献 ==
*樺島勝一・織田信恒著　『正チャンの冒険』　[[小学館クリエイティブ]]、2003年　ISBN 477803001X
*[[瀬田貞二]]著　『絵本論』　[[福音館書店]]、1985年　ISBN 4834004112
*竹内オサム「「正チヤンの冒険」の変容過程－初出作品の検討と単行本化の問題－」『マンガ研究』11号　2007
*竹内オサム『子どもマンガの巨人たち』三一書房　1995
*[[鶴見俊輔]]著　『戦後日本の大衆文化史』　[[岩波書店]]（岩波現代文庫）、2001年　ISBN 4006000510
*[[松本零士]]・[[日高敏]]編著　『漫画大博物館』　小学館クリエイティブ、2004年　ISBN 4778030079
*[[吉岡重三郎]]編集　『寶塚少女歌劇廿年史』　寶塚少女歌劇團、1933年

== 外部リンク ==
*[https://kawasaki.iri-project.org/content/?doi=0447544/01800000O6 『お伽 正チャンの冒険』全7巻 小星(作)/東風人(画)（川崎市市民ミュージアム 漫画資料コレクション）] 
* {{Twitter|shochannoboken|正チャンの冒険}}
*[http://www.hankyu-bunka.or.jp/archive/?app=shiryo&mode=detail&list_id=361&data_id=100218 ポスター 宝塚少女歌劇1924年10月大劇場（阪急文化アーカイブズ）] - 「お伽歌劇  正ちゃんの冒険」上演時のポスター
*[https://www.asahi.com/articles/ASR1R7266R1RUCVL056.html 百年前の画期的漫画が復活　ジョジョ初代担当の孫「ジャンプと一緒」（朝日新聞、2023年1月24日）]　-　連載時の雑誌や新聞の紙面などが紹介されている．
*[https://www.asahi.com/articles/ASRBD660XRB4POMB00N.html 100年前連載の4コマ漫画「正チャンの冒険」アニメフィルム発見 (朝日新聞2023年10月13日）]

== 関連項目 ==
* [[おちょやん]] - 2021年1月11日から放送の第6週「楽しい冒険つづけよう」では、正チャンの冒険の舞台化の様子が描かれている。
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[[Category:漫画作品 し|ようちやんのほうけん]]
[[Category:大正時代の文化]]
[[Category:雑誌掲載漫画作品]]
[[Category:朝日新聞に連載された漫画]]