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'''ゲンゲ'''(紫雲英、翹揺、[[学名]]: {{Snamei|Astragalus sinicus}})は[[マメ科]][[ゲンゲ属]]に[[生物の分類|分類]]される[[越年草]]である。[[中国大陸|中国]]原産。'''レンゲソウ'''(蓮華草)<ref>久志博信『「山野草の名前」1000がよくわかる図鑑』[[主婦と生活社]]、2010年、20ページ、ISBN 978-4-391-13849-8</ref>、'''レンゲ'''とも呼ぶ
'''ゲンゲ'''(紫雲英、翹揺、[[学名]]: {{Snamei|Astragalus sinicus}})は[[マメ科]][[ゲンゲ属]]に[[生物の分類|分類]]される[[越年草]]である。[[中国大陸|中国]]原産。別名'''レンゲソウ'''(蓮華草)<ref>久志博信『「山野草の名前」1000がよくわかる図鑑』[[主婦と生活社]]、2010年、20ページ、ISBN 978-4-391-13849-8</ref>、レンゲ(蓮華){{sfn|金田初代|2010|p=32}}、ゲンゲバナ{{sfn|金田初代|2010|p=32}}、ゲンゲソウ{{sfn|高野昭人監修 世界文化社編|2006|p=84}}、ノエンドウ{{sfn|高野昭人監修 世界文化社編|2006|p=84}}、ホウゾウバナ{{sfn|高野昭人監修 世界文化社編|2006|p=84}}ともよばれる。水田の[[緑肥]]や、[[蜜源植物]]としても知られる


== 特徴 ==
== 特徴 ==
越年草(二年草){{sfn|金田初代|2010|p=32}}{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2018|p=200}}。[[中国]]原産で、日本では[[帰化植物]]であり、全国各地に分布するが[[岐阜県]]以西に多い{{sfn|角田公次|1997|p=127}}{{sfn|金田初代|2010|p=32}}。やや湿った環境を好んで生える{{sfn|亀田辰吉|2019|p=10}}。日本へは古くに渡来し、水田の緑肥として栽培されてきたが、現在では野生化して水田や周辺のあぜ、休耕田、草地などに見られる{{sfn|金田初代|2010|p=32}}{{sfn|川原勝征|2015|p=70}}{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2018|p=200}}。
湿ったところに生える。全体に柔らかな草である。茎の高さ10-25 [[センチメートル|cm]]。根本で枝分かれし、暖かい地方では水平方向に[[茎|匍匐]]して60-150 cmまで伸びる場合もある。茎の先端は上を向く。また、根本から一回り細い[[匍匐茎]]を伸ばすこともある。葉は1回[[羽状複葉]]、小葉は円形に近い楕円形、先端は丸いか、少しくぼむ。1枚の葉では基部から先端まで小葉の大きさがあまり変わらない。花茎は[[葉腋]]から出てまっすぐに立ち、葉より突き出して花をつける。花は先端に輪生状にひとまとまりにつく。花色は紅紫色だが、まれに白色(クリーム色)の株もある。

全体に柔らかな草である。[[茎]]の高さ10 - 25 [[センチメートル]] (cm) になる{{sfn|高野昭人監修 世界文化社編|2006|p=84}}。根本で枝分かれしながら、地面を這いながら[[茎|匍匐]]して{{sfn|金田初代|2010|p=32}}、長さ100&nbsp;cmに達するものもある{{sfn|川原勝征|2015|p=70}}。茎の先端は上を向く。また、根本から一回り細い[[匍匐茎]]を伸ばすこともある。[[葉]]は1回奇数[[羽状複葉]]{{sfn|金田初代|2010|p=32}}、4 - 5対前後のほぼ同じ大きさの[[小葉]]を付けていて、小葉は楕円形、先端は丸いか、少しくぼむ{{sfn|高野昭人監修 世界文化社編|2006|p=84}}{{sfn|川原勝征|2015|p=70}}。1枚の葉では基部から先端まで小葉の大きさがあまり変わらない。

花期は春(4 - 5月ごろ){{sfn|高野昭人監修 世界文化社編|2006|p=84}}{{sfn|金田初代|2010|p=32}}。花茎は[[葉腋]]から出てまっすぐに立ち、葉より高く突き出して、先端に長さ1&nbsp;cmほどある蝶形の花を10個ほど輪生状にまとまってつく{{sfn|金田初代|2010|p=33}}{{sfn|川原勝征|2015|p=70}}。花色は紅紫色がほとんどだが、まれに白色(クリーム色)や濃い赤色の株もあり{{sfn|高野昭人監修 世界文化社編|2006|p=84}}{{sfn|川原勝征|2015|p=70}}、白花はシロバナレンゲとよばれている{{sfn|金田初代|2010|p=32}}。[[虫媒花]]で、[[ミツバチ]]などが花の横に突き出た[[花弁]]にのしかかるように止まり、吸蜜したり花粉を集めると、ミツバチの重さで下側の花弁(竜骨弁という)が割れて中から雄蕊や雌蕊が露出し、ミツバチの腹部に花粉がついて他の花へ媒介する{{sfn|亀田龍吉|2019|p=10}}。

[[果実]]は[[豆果]]で、長さ2 - 3&nbsp;cmほどの三角状で、はじめは緑色であるが黒く熟して、先はくちばし状になって上を向く{{sfn|川原勝征|2015|p=70}}{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2018|p=200}}。サヤの中に並んで入っている[[種子]]は、ゆがんだ腎形、偏平で、へそは半円形に湾入した奥にある{{sfn|鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|2018|p=200}}。
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Image:ゲンゲ.JPG|薄紫色のゲンゲ
Image:ゲンゲ.JPG|薄紫色のゲンゲ
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== 利用・文化 ==
== ゲンゲ畑 ==
[[ファイル:Field of Astragalus sinicus.jpg|サムネイル|ゲンゲ畑、[[三重県]][[桑名市]]]]
ゲンゲの花は、良い「[[蜂蜜|みつ]]源」になる。[[蜂蜜]]の源となる[[蜜源植物]]として利用されている。[[ギリシア神話]]では、祭壇に捧げる花を摘みに野に出た仲良し姉妹の話が知られている。[[ニュンペー|ニンフ]]が変身した蓮華草を誤って摘んでしまった姉のドリュオペが、代わりに蓮華草に変わってしまう。「花はみな女神が姿を変えたもの。もう花は摘まないで」、と言い残したという。
[[化学肥料]]が自由に使われるようになるまでは、空気中の[[窒素]]を固定してくれる[[根粒菌]]を利用する[[緑肥]](りょくひ = 草肥:くさごえ){{Sfn|高野昭人監修 世界文化社編|2006|p=84}}{{sfn|川原勝征|2015|p=70}}、および[[ウシ|牛]]の飼料とするため、水田裏作で9月ごろに[[イネ]]の間に種を、[[稲刈り]]後に生育して冬を越し、翌春に花を咲かせていた{{Sfn|角田公次|1997|p=127}}。これは'''ゲンゲ畑'''と呼ばれ、水田一面に花が咲くさまは「春の風物詩」であった。化学肥料は、20世紀に入ると生産が本格化したが、原材料が[[軍事物資]]という側面があり農業分野で大量に使用することがはばかられていた。このためゲンゲを水田や畑に[[緑肥]]として栽培することで化学肥料の使用を抑える手法が取られていた。戦後は、化学肥料の大量生産や使用が自由になったこと、また、保温折衷[[苗代]]の普及によりイネの早植えが可能になり、緑肥の生産スケジュールと被るようになったことも<ref>大山の歴史編集委員会編『大山の歴史』大山町,1990年刊,p.525</ref>、ゲンゲ畑が急速に姿を消す原因の一つとなった。一時はほとんど緑肥としての利用はなくなったが、一部では[[有機栽培]]が見直され、再び[[イネ]]の収穫期の水田にゲンゲの種子をまいて栽培するところもある{{Sfn|高野昭人監修 世界文化社編|2006|p=84}}


[[窒素固定]]は、植物が[[大気]]中の[[窒素]]を取り込んで[[窒素肥料]]のようなかたちで蓄えることによる。ゲンゲは、根に球形の[[根粒]]がつく。ゲンゲの窒素固定力は強大で10&nbsp;cmの生育でおおよそ10[[アール (単位)|アール]]1[[トン]] の生草重、4 - 5[[キログラム]] (kg) の窒素を供給し得る。
=== 日本における利用・文化 ===
春の[[季語]]。ゆでた若芽は食用にもなる(おひたし、汁の実、油いため他)。[[民間薬]]として利用されることがある(利尿や解熱など)。ゲンゲの花を歌った[[童歌|わらべ歌]]もある。「[[春の小川]]」などが知られている。「手に取るな やはり野に置け 蓮華草」は、[[江戸時代]]に[[滝野瓢水]]が詠んだ[[俳句]]。[[遊女]]を[[身請]]しようとした友人を止めるために詠んだ句で、蓮華(遊女)は野に咲いている(自分のものではない)から美しいので、自分のものにしてはその美しさは失われてしまうという意味。転じて、ある人物を表舞台に立つべきではなかったと評する意味合いでも使われる([[荒舩清十郎]]の項目を参照)。


== 利用 ==
ゲンゲの花は、良い「[[蜂蜜|みつ]]源」になる。[[蜂蜜]]の源となる[[蜜源植物]]として利用されている。日本の蜜源植物では代表的なもので、蜜の色や味も良く、量的にもたくさん採れる{{sfn|角田公次|1997|p=127}}。花は[[ミツバチ]]がとまると自然に花びらが開いて、中の花蜜が吸いやすいようにできている{{sfn|角田公次|1997|p=127}}。害虫に[[アルファルファタコゾウムシ]]があり、ゲンゲ畑に発生して食害する被害で、九州や中国地方の養蜂家が廃業せざるを得ないという問題も起こった{{sfn|角田公次|1997|p=127}}。

=== 食用 ===
花が開く前の若芽や若葉、つぼみ、花は食用にできる{{sfn|金田初代|2010|p=32}}。採取時期は暖地が10 - 4月ごろ、寒冷地では4 - 5月ごろとされ、やわらかい茎の部分から摘む{{sfn|金田初代|2010|pp=32&ndash;33}}。若芽や若葉は軽く茹でて水にさらし、[[おひたし]]、[[和え物]]、[[煮びたし]]、[[炒め物]]、汁に実にする{{sfn|高野昭人監修 世界文化社編|2006|p=84}}{{sfn|金田初代|2010|p=32}}{{sfn|川原勝征|2015|p=70}}。つぼみと若葉を一緒に、生のまま[[天ぷら]]にもできる{{sfn|金田初代|2010|p=32}}。花は萼を取り除いて、[[ジャム]]やシロップ漬け、花酒にしたり、さっと茹でて[[酢の物]]や椀だねにして料理の彩りにする{{sfn|高野昭人監修 世界文化社編|2006|p=84}}{{sfn|金田初代|2010|p=32}}。食味は、マメ科特有のコクと香りがある{{sfn|金田初代|2010|p=32}}、おひたしにするとクセがなくさっぱりとして美味しい{{sfn|高野昭人監修 世界文化社編|2006|p=84}}とも評されている。

=== 薬用 ===
[[民間薬]]として利用されることがある。開花期の地上部を採取して日干しにしたものを、[[利尿]]や[[解熱]]薬にする{{sfn|高野昭人監修 世界文化社編|2006|p=84}}。解熱や利尿には、1日量10[[グラム]]の乾燥させた茎葉を、[[コップ]]3杯ほどの水で半量になるまで煎じて、分服する[[民間療法]]が知られている{{sfn|高野昭人監修 世界文化社編|2006|p=84}}。また、生の葉のしぼり汁は、軽いやけどの外用薬として使うと、回復を早める効果もあるといわれている{{sfn|高野昭人監修 世界文化社編|2006|p=84}}。

=== 飼料 ===
乳牛を飼っているところでは、飼料とした。[[休耕田]]の雑草防止策にもなった。ゲンゲの生える中に[[不耕起栽培|不耕起]]直播して乾田期[[除草剤]]を使わないですむ方法、ゲンゲの枯れぬうちに入水、強力な[[カルボン酸|有機酸]]を出させて雑草を枯死させる方法がある。ただしゲンゲは湿害に弱く、不耕起では[[連作|連作障害]]が起きかねない。21世紀に入ってからは、外来種の[[アルファルファタコゾウムシ]]による被害がめだつ。
乳牛を飼っているところでは、飼料とした。[[休耕田]]の雑草防止策にもなった。ゲンゲの生える中に[[不耕起栽培|不耕起]]直播して乾田期[[除草剤]]を使わないですむ方法、ゲンゲの枯れぬうちに入水、強力な[[カルボン酸|有機酸]]を出させて雑草を枯死させる方法がある。ただしゲンゲは湿害に弱く、不耕起では[[連作|連作障害]]が起きかねない。21世紀に入ってからは、外来種の[[アルファルファタコゾウムシ]]による被害がめだつ。


==== ゲンゲ畑 ====
== 文化 ==
春の[[季語]]。ゲンゲの花を歌った[[童歌|わらべ歌]]もある。「[[春の小川]]」などが知られている。「手に取るな やはり野に置け 蓮華草」は、[[江戸時代]]に[[滝野瓢水]]が詠んだ[[俳句]]。[[遊女]]を[[身請]]しようとした友人を止めるために詠んだ句で、蓮華(遊女)は野に咲いている(自分のものではない)から美しいので、自分のものにしてはその美しさは失われてしまうという意味。転じて、ある人物を表舞台に立つべきではなかったと評する意味合いでも使われる([[荒舩清十郎]]の項目を参照)。
[[ファイル:Field of Astragalus sinicus.jpg|サムネイル|ゲンゲ畑、[[三重県]][[桑名市]]]]
[[化学肥料]]が自由に使われるようになるまでは、[[緑肥]](りょくひ = 草肥:くさごえ)および[[ウシ|牛]]の飼料とするため、8-9月頃、稲刈り前の[[水田]]の水を抜いて種をき翌春に花を咲かせていた。これは'''ゲンゲ畑'''と呼ばれ「春の風物詩」であった。化学肥料は、20世紀に入ると生産が本格化したが、原材料が[[軍事物資]]という側面があり農業分野で大量に使用することがはばかられていた。このためゲンゲを水田や畑に[[緑肥]]として栽培することで化学肥料の使用を抑える手法が取られていた。戦後は、化学肥料の大量生産や使用が自由になったこと、また、保温折衷[[苗代]]の普及によりイネの早植えが可能になり、緑肥の生産スケジュールと被るようになったことも<ref>大山の歴史編集委員会編『大山の歴史』大山町,1990年刊,p.525</ref>、ゲンゲ畑が急速に姿を消す原因の一つとなった。


[[ギリシア神話]]では、祭壇に捧げる花を摘みに野に出た仲良し姉妹の話が知られている。[[ニュンペー|ニンフ]]が変身した蓮華草を誤って摘んでしまった姉のドリュオペが、代わりに蓮華草に変わってしまう。「花はみな女神が姿を変えたもの。もう花は摘まないで」、と言い残したという。
[[窒素固定]]は、植物が[[大気]]中の[[窒素]]を取り込んで[[窒素肥料]]のようなかたちで蓄えることによる。ゲンゲは、根に球形の根粒がつく。ゲンゲの窒素固定力は強大で10 cmの生育でおおよそ10 [[アール (単位)|アール]] 1 [[トン|t]] の生草重、4-5 [[キログラム|kg]] の窒素を供給し得る。普通15ないし20 cmに成長するからもっと多くなるはずである。


==== 地方公共団体の花に指定している自治体 ====
=== 地方公共団体の花に指定している自治体 ===
* [[愛媛県]][[西予市]](2006年2月1日制定)
* [[愛媛県]][[西予市]](2006年2月1日制定)
* [[岐阜県]]
* [[岐阜県]]
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== 出典 ==
== 出典 ==
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== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書|author=金田初代|coauthors=金田洋一郎(写真)|chapter=レンゲソウ(蓮華草)|title=ひと目でわかる! おいしい「山菜・野草」の見分け方・食べ方|publisher=[[PHP研究所]]|date=2010-09-24|pages=32 - 33|ISBN=978-4-569-79145-6|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author =川原勝征|chapter=レンゲ(蓮華)|title = 食べる野草と薬草|date =2015-11-10|publisher = [[南方新社]]|isbn = 978-4-86124-327-1|page = 70|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author =亀田龍吉|title=ルーペで発見! 雑草観察ブック|date=2019-03-15|publisher=[[世界文化社]]|pages=10 - 11|isbn=978-4-418-19203-8|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author=鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|title=増補改訂 草木の種子と果実:形態や大きさが一目でわかる734種|date=2018-09-20|publisher=[[誠文堂新光社]]|series=ネイチャーウォッチングガイドブック|isbn=978-4-416-51874-8|page=200|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author=高野昭人監修 世界文化社編|chapter=れんげそう(蓮華草)|title=おいしく食べる 山菜・野草|publisher=[[世界文化社]]|series=別冊家庭画報|date=2006-04-20|ISBN=4-418-06111-8|page=24|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author=角田公次|title=ミツバチ:飼育・生産の実際と蜜源植物|publisher=[[農山漁村文化協会]]|series=新特産シリーズ|date=1997-03-05|ISBN=4-540-96116-0|ref=harv}}


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
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}}
* {{Kotobank|レンゲソウ|2=[[星川清親]]・[[湯浅浩史]]}}
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* [http://had0.big.ous.ac.jp/plantsdic/angiospermae/dicotyledoneae/choripetalae/leguminosae/genge/genge.htm ゲンゲ]([http://had0.big.ous.ac.jp/plantsdic/zatsugakujiten.htm 植物雑学事典 岡山理科大学 波田研]
* [http://had0.big.ous.ac.jp/plantsdic/angiospermae/dicotyledoneae/choripetalae/leguminosae/genge/genge.htm ゲンゲ]({{Wayback|url=http://had0.big.ous.ac.jp/plantsdic/zatsugakujiten.htm |title=植物雑学事典 岡山理科大学 波田研 |date=20050526082332}}
* [http://bee.lin.gr.jp/ (社)日本養蜂はちみつ協会]
* [http://bee.lin.gr.jp/ (社)日本養蜂はちみつ協会]



2024年4月18日 (木) 14:25時点における最新版

ゲンゲ
ゲンゲ
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : コア真正双子葉類 core eudicots
階級なし : バラ類 rosids
階級なし : マメ類 fabids
: マメ目 Fabales
: マメ科 Fabaceae
亜科 : マメ亜科 Faboideae
: ゲンゲ属 Astragalus
: ゲンゲ A. sinicus
学名
Astragalus sinicus L. (1767)[1]
和名
ゲンゲ
英名
Chinese milk vetch

ゲンゲ(紫雲英、翹揺、学名: Astragalus sinicus)はマメ科ゲンゲ属分類される越年草である。中国原産。別名レンゲソウ(蓮華草)[2]、レンゲ(蓮華)[3]、ゲンゲバナ[3]、ゲンゲソウ[4]、ノエンドウ[4]、ホウゾウバナ[4]ともよばれる。水田の緑肥や、蜜源植物としても知られる。

特徴[編集]

越年草(二年草)[3][5]中国原産で、日本では帰化植物であり、全国各地に分布するが岐阜県以西に多い[6][3]。やや湿った環境を好んで生える[7]。日本へは古くに渡来し、水田の緑肥として栽培されてきたが、現在では野生化して水田や周辺のあぜ、休耕田、草地などに見られる[3][8][5]

全体に柔らかな草である。の高さ10 - 25 センチメートル (cm) になる[4]。根本で枝分かれしながら、地面を這いながら匍匐して[3]、長さ100 cmに達するものもある[8]。茎の先端は上を向く。また、根本から一回り細い匍匐茎を伸ばすこともある。は1回奇数羽状複葉[3]、4 - 5対前後のほぼ同じ大きさの小葉を付けていて、小葉は楕円形、先端は丸いか、少しくぼむ[4][8]。1枚の葉では基部から先端まで小葉の大きさがあまり変わらない。

花期は春(4 - 5月ごろ)[4][3]。花茎は葉腋から出てまっすぐに立ち、葉より高く突き出して、先端に長さ1 cmほどある蝶形の花を10個ほど輪生状にまとまってつく[9][8]。花色は紅紫色がほとんどだが、まれに白色(クリーム色)や濃い赤色の株もあり[4][8]、白花はシロバナレンゲとよばれている[3]虫媒花で、ミツバチなどが花の横に突き出た花弁にのしかかるように止まり、吸蜜したり花粉を集めると、ミツバチの重さで下側の花弁(竜骨弁という)が割れて中から雄蕊や雌蕊が露出し、ミツバチの腹部に花粉がついて他の花へ媒介する[10]

果実豆果で、長さ2 - 3 cmほどの三角状で、はじめは緑色であるが黒く熟して、先はくちばし状になって上を向く[8][5]。サヤの中に並んで入っている種子は、ゆがんだ腎形、偏平で、へそは半円形に湾入した奥にある[5]

ゲンゲ畑[編集]

ゲンゲ畑、三重県桑名市

化学肥料が自由に使われるようになるまでは、空気中の窒素を固定してくれる根粒菌を利用する緑肥(りょくひ = 草肥:くさごえ)[4][8]、およびの飼料とするため、水田裏作で9月ごろにイネの間に種をまき、稲刈り後に生育して冬を越し、翌春に花を咲かせていた[6]。これはゲンゲ畑と呼ばれ、水田一面に花が咲くさまは「春の風物詩」であった。化学肥料は、20世紀に入ると生産が本格化したが、原材料が軍事物資という側面があり農業分野で大量に使用することがはばかられていた。このためゲンゲを水田や畑に緑肥として栽培することで化学肥料の使用を抑える手法が取られていた。戦後は、化学肥料の大量生産や使用が自由になったこと、また、保温折衷苗代の普及によりイネの早植えが可能になり、緑肥の生産スケジュールと被るようになったことも[11]、ゲンゲ畑が急速に姿を消す原因の一つとなった。一時はほとんど緑肥としての利用はなくなったが、一部では有機栽培が見直され、再びイネの収穫期の水田にゲンゲの種子をまいて栽培するところもある[4]

窒素固定は、植物が大気中の窒素を取り込んで窒素肥料のようなかたちで蓄えることによる。ゲンゲは、根に球形の根粒がつく。ゲンゲの窒素固定力は強大で10 cmの生育でおおよそ10アール・1トン の生草重、4 - 5キログラム (kg) の窒素を供給し得る。

利用[編集]

ゲンゲの花は、良い「みつ源」になる。蜂蜜の源となる蜜源植物として利用されている。日本の蜜源植物では代表的なもので、蜜の色や味も良く、量的にもたくさん採れる[6]。花はミツバチがとまると自然に花びらが開いて、中の花蜜が吸いやすいようにできている[6]。害虫にアルファルファタコゾウムシがあり、ゲンゲ畑に発生して食害する被害で、九州や中国地方の養蜂家が廃業せざるを得ないという問題も起こった[6]

食用[編集]

花が開く前の若芽や若葉、つぼみ、花は食用にできる[3]。採取時期は暖地が10 - 4月ごろ、寒冷地では4 - 5月ごろとされ、やわらかい茎の部分から摘む[12]。若芽や若葉は軽く茹でて水にさらし、おひたし和え物煮びたし炒め物、汁に実にする[4][3][8]。つぼみと若葉を一緒に、生のまま天ぷらにもできる[3]。花は萼を取り除いて、ジャムやシロップ漬け、花酒にしたり、さっと茹でて酢の物や椀だねにして料理の彩りにする[4][3]。食味は、マメ科特有のコクと香りがある[3]、おひたしにするとクセがなくさっぱりとして美味しい[4]とも評されている。

薬用[編集]

民間薬として利用されることがある。開花期の地上部を採取して日干しにしたものを、利尿解熱薬にする[4]。解熱や利尿には、1日量10グラムの乾燥させた茎葉を、コップ3杯ほどの水で半量になるまで煎じて、分服する民間療法が知られている[4]。また、生の葉のしぼり汁は、軽いやけどの外用薬として使うと、回復を早める効果もあるといわれている[4]

飼料[編集]

乳牛を飼っているところでは、飼料とした。休耕田の雑草防止策にもなった。ゲンゲの生える中に不耕起直播して乾田期除草剤を使わないですむ方法、ゲンゲの枯れぬうちに入水、強力な有機酸を出させて雑草を枯死させる方法がある。ただしゲンゲは湿害に弱く、不耕起では連作障害が起きかねない。21世紀に入ってからは、外来種のアルファルファタコゾウムシによる被害がめだつ。

文化[編集]

春の季語。ゲンゲの花を歌ったわらべ歌もある。「春の小川」などが知られている。「手に取るな やはり野に置け 蓮華草」は、江戸時代滝野瓢水が詠んだ俳句遊女身請しようとした友人を止めるために詠んだ句で、蓮華(遊女)は野に咲いている(自分のものではない)から美しいので、自分のものにしてはその美しさは失われてしまうという意味。転じて、ある人物を表舞台に立つべきではなかったと評する意味合いでも使われる(荒舩清十郎の項目を参照)。

ギリシア神話では、祭壇に捧げる花を摘みに野に出た仲良し姉妹の話が知られている。ニンフが変身した蓮華草を誤って摘んでしまった姉のドリュオペが、代わりに蓮華草に変わってしまう。「花はみな女神が姿を変えたもの。もう花は摘まないで」、と言い残したという。

地方公共団体の花に指定している自治体[編集]

その他[編集]

千葉県大多喜町大多喜レンゲの里がある。

出典[編集]

  1. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Astragalus sinicus L. ゲンゲ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年3月24日閲覧。
  2. ^ 久志博信『「山野草の名前」1000がよくわかる図鑑』主婦と生活社、2010年、20ページ、ISBN 978-4-391-13849-8
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n 金田初代 2010, p. 32.
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 高野昭人監修 世界文化社編 2006, p. 84.
  5. ^ a b c d 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2018, p. 200.
  6. ^ a b c d e 角田公次 1997, p. 127.
  7. ^ 亀田辰吉 2019, p. 10.
  8. ^ a b c d e f g h 川原勝征 2015, p. 70.
  9. ^ 金田初代 2010, p. 33.
  10. ^ 亀田龍吉 2019, p. 10.
  11. ^ 大山の歴史編集委員会編『大山の歴史』大山町,1990年刊,p.525
  12. ^ 金田初代 2010, pp. 32–33.

参考文献[編集]

  • 金田初代、金田洋一郎(写真)「レンゲソウ(蓮華草)」『ひと目でわかる! おいしい「山菜・野草」の見分け方・食べ方』PHP研究所、2010年9月24日、32 - 33頁。ISBN 978-4-569-79145-6 
  • 川原勝征「レンゲ(蓮華)」『食べる野草と薬草』南方新社、2015年11月10日、70頁。ISBN 978-4-86124-327-1 
  • 亀田龍吉『ルーペで発見! 雑草観察ブック』世界文化社、2019年3月15日、10 - 11頁。ISBN 978-4-418-19203-8 
  • 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『増補改訂 草木の種子と果実:形態や大きさが一目でわかる734種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォッチングガイドブック〉、2018年9月20日、200頁。ISBN 978-4-416-51874-8 
  • 高野昭人監修 世界文化社編「れんげそう(蓮華草)」『おいしく食べる 山菜・野草』世界文化社〈別冊家庭画報〉、2006年4月20日、24頁。ISBN 4-418-06111-8 
  • 角田公次『ミツバチ:飼育・生産の実際と蜜源植物』農山漁村文化協会〈新特産シリーズ〉、1997年3月5日。ISBN 4-540-96116-0 

外部リンク[編集]