「不等毛藻」の版間の差分

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== 分類と各群の特徴 ==
== 分類と各群の特徴 ==

[[Image:Pacific rockweed, Olympic National Park, USA.jpg|right|200px|thumb|褐藻綱のヒバマタ(''Fucus distichus'')]]
[[Image:Diatoms.png|right|200px|thumb|珪藻綱]]


;[[褐藻]]綱 Phaeophyceae
;[[褐藻]]綱 Phaeophyceae
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;ピングイオ藻綱 Pinguiophyceae
;ピングイオ藻綱 Pinguiophyceae
:2002年、河地らにより新設された綱。タイプ属は''Pinguiochrysis ''。高度不飽和脂肪酸を大量に生産する種が含まれる。
:2002年、河地らにより新設された綱。5属5種、タイプ属は ''Pinguiochrysis'' 。高度不飽和脂肪酸を大量に生産する種が含まれる。


;ボリド藻綱 Bolidophyceae
;ボリド藻綱 Bolidophyceae
:海産のピコプランクトンで、1999年、Guillouらにより綱が設立された。分子系統解析(18S)では珪藻の姉妹群となる。
:海産のピコプランクトンで、1999年、Guillouらにより綱が設立された。1属2種。分子系統解析(18S)では珪藻の姉妹群となる。


;シゾクラディア藻綱 Schizocladiophyceae
;シゾクラディア藻綱 Schizocladiophyceae
:2003年に設立された。1属1種(''Schizocladia ischiensis'')のみが記載されている。分子系統解析(18S)では褐藻に近縁。海産で分枝状群体を形成するが、個々の細胞の原形質は連絡しない。また、細胞壁は[[アルギン酸]]を多く含み、[[セルロース]]を含まない。


;クリソメリス藻綱 Chrysomerophyceae
;クリソメリス藻綱 Chrysomerophyceae
:1995年に設立された。およそ8属16種。糸状あるいは葉状の平面的な群体を形成する。個々の細胞の原形質は連絡しない。また、細胞壁はアルギン酸、セルロースともに含まない。


;ファエオタムニオン藻綱 Phaeothamniophyceae
;ファエオタムニオン藻綱 Phaeothamniophyceae
:樹状の群体を形成する藻類。代表種は''Phaeothamnion confervicola''。古くは黄金色藻綱に含められていたが、分子系統解析(18S)により褐藻や黄緑藻に近い事が分かり、1998年、Baileyらにより綱として独立させる意見が提唱された。しかしながら褐藻や黄緑藻を含むこのグループは線引きが微妙であり、どこまでを独立の綱として認めるかについては意見が分かれている。
:樹状の群体を形成する淡水性の藻類。およそ14属30種、代表種は ''Phaeothamnion confervicola''。古くは黄金色藻綱に含められていたが、分子系統解析(18S)により褐藻や黄緑藻に近い事が分かり、1998年、Baileyらにより綱として独立させる意見が提唱された。しかしながら褐藻や黄緑藻を含むこのグループは線引きが微妙であり、どこまでを独立の綱として認めるかについては意見が分かれている。

== 関連項目 ==

*[[ストラメノパイル]]
*[[クロムアルベオラータ]]


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
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* {{cite journal | author = Kawachi M, Inouye I, Honda D, O'Kelly CJ, Bailey JC,Bidigare RR, Andersen RA | title = The Pinguiophyceae classis nova, a new class of photosynthetic stramenopiles whose members produce large amounts of omega-3 fatty acids | journal = Phycol Res | year = 2002 | volume = 50 | issue = 1 | pages = 31}}
* {{cite journal | author = Kawachi M, Inouye I, Honda D, O'Kelly CJ, Bailey JC,Bidigare RR, Andersen RA | title = The Pinguiophyceae classis nova, a new class of photosynthetic stramenopiles whose members produce large amounts of omega-3 fatty acids | journal = Phycol Res | year = 2002 | volume = 50 | issue = 1 | pages = 31}}


外部リンク
== 外部リンク ==


*[http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~inouye/ino/st/stramenopiles.html 藻類画像データ-stramenopiles(筑波大学)]
*[http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~inouye/ino/st/stramenopiles.html 藻類画像データ-stramenopiles(筑波大学)]
*[http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~algae/YMFF/ 横浜沿岸域のプロチスタ(筑波大学)]
*[http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~algae/YMFF/ 横浜沿岸域のプロチスタ(筑波大学)]
*[http://protist.i.hosei.ac.jp/taxonomy/Heterokontophyta/index.html 原生生物図鑑-不等毛類 Heterokonta]
*[http://protist.i.hosei.ac.jp/taxonomy/Heterokontophyta/index.html 原生生物図鑑-不等毛類 Heterokonta]

== 関連項目 ==

*[[ストラメノパイル]]
*[[クロムアルベオラータ]]


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[[en:Heterokont]]
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2006年12月6日 (水) 09:54時点における版

不等毛藻(ふとうもうそう、heterokonta)は葉緑体を持ったストラメノパイル生物より成る生物群である。分類上は不等毛植物門(Heterokontophyta)、或いは黄色植物門(Chromophyta)としてまとめられる。大型の海草である褐藻以外は全て単細胞性の藻類で、淡水から海水まで広く分布する。

特徴

不等毛植物門は藻類の中では最大級の植物門であり、陸上植物に匹敵する多様性と生態的意義を持つグループである。コンブワカメといった大型海草から珪藻のような微細藻、一部には葉緑体を失った原生動物的な生物も含まれる。

細胞構造

不等毛藻の細胞構造は各綱毎に多様化が著しいが、鞭毛小毛を持つ前鞭毛と、クロロフィルa/cを持つ黄色の葉緑体といった基本構造は共通である。細かい点では鞭毛装置の構成要素とそのトポロジー、細胞内を走る骨格系微小管の配向などからも分類群の単系統性を窺い知る事ができる。

鞭毛

他のストラメノパイル生物同様、不等毛藻も前鞭毛に三部構成(基部、軸部、先端毛)の鞭毛小毛を持つ。褐藻は海藻であり、個々の細胞は藻体の構成要素として運動性を持たないが、生殖時に放出される遊走子が鞭毛を持つ。これは珪藻やファエオタムニオン藻でも同様である。

葉緑体

不等毛藻の葉緑体紅藻由来で、光合成色素としてクロロフィルa/c、その他補助色素として種々のカロテノイドを持つ。通常、細胞内に葉緑体は二つあり、四重膜に囲まれている。最外膜は核膜と連絡する。ヌクレオモルフは存在しない。

上記のように、不等毛藻の葉緑体はハプト藻のものと良く似ているが、不等毛藻ではガードルラメラを持つ点が異なる。ガードルラメラは葉緑体膜直下にある袋状のラメラで、この中に三重チラコイドが入る形になっている。また、不等毛藻の葉緑体DNAはガードルラメラの内側に沿ってリング状に分布している。

不等毛藻には、黄金色藻綱のSpumellaParaphysomonas、ディクチオカ藻綱のPteridomonasCiliophrys等、葉緑体を二次的に失った生物も含まれる。従属栄養性の生物が葉緑体を二次的に失ったのか、それとも元々獲得しなかったのか、という判断は分子系統樹上での最節約的解釈による場合が多いが、生物に葉緑体の痕跡器官が残っている場合には、これが二次的喪失の有力な証拠となる。不等毛藻においては、Pteridomonas danicaからは痕跡的な色素体であるロイコプラストが、Ciliophrys infusionumからは葉緑体コードの遺伝子であるrbcLが発見されている。これらの直接的な根拠に基づき、葉緑体を二次的に喪失した不等毛藻と、元々獲得していない無色ストラメノパイルとは厳密に区別される。

その他の構造

貯蔵物質はβ-1,3グルカン(ラミナラン、クリソラミナラン)である。これは細胞内に小胞(クリソラミナラン胞)として蓄積される。

分類と各群の特徴

褐藻綱のヒバマタ(Fucus distichus
珪藻綱
褐藻綱 Phaeophyceae
海洋に広く分布する大型海藻類で、コンブ、ワカメ、ヒジキなど食用になるものも多い。不等毛藻の中では最も人間に馴染みの深いグループである。詳しくは褐藻を参照。
珪藻綱 Bacillariophyceae
珪酸質の殻を持つ藻類で、淡水から海水まで広く分布する。単細胞藻類としてはサイズが大きいものもあり、また入手が容易である事から、顕微鏡観察の教材としてよく用いられる。詳しくは珪藻を参照。
黄金色藻綱 Chrysophyceae
淡水を中心に分布する藻類で、多くはプランクトン性の生活を営む。単細胞遊泳性の生物が多いが、Dinobryon(サヤツナギ)の樹状群体やUroglenaの球状群体といった体制も見られる。珪酸質の鱗片を細胞表面に持つ生物もあり、その内Synura属やMallomonas属はシヌラ藻綱として区別する意見もある。古くはパルマ藻やペラゴ藻、ディクチオカ藻も黄金色藻に含められていたが、現在では分離されている。
ラフィド藻綱 Raphidophyceae
淡水と海水に分布する。細胞外被として細胞壁や鱗片を持たない点、従って非常に細胞形態が不安定で変形しやすい点が特徴である。また、細胞内に葉緑体が数個~数十個と多数見られ、他の藻類と区別しやすい。ラフィド藻は淡水では地味な存在であるが、海洋、特に沿岸域では頻繁に大発生して赤潮を引き起こす。赤潮からも分かる通り、海産の種は赤褐色~オレンジ色をしているが、淡水産のものは緑藻類のような緑色である。これは、淡水種がカロテノイドのうちフコキサンチンを欠く事による。参考:赤潮
黄緑藻綱 Xanthophyceae
淡水を中心に分布する藻類。ごく少数が海水域や汽水域に分布する。色は黄緑というよりも緑色に近く、しばしば緑藻と区別する事が困難である(ヨウ素液のようなα-1,4グルカン特異的な染色液により染色されない事で判別できる)。体制は多彩で、球形(Botrydiopsis)、遊泳性(Heterochloris)、アメーバ状(Rhizochloris)、樹状群体(Mischococcus)、糸状群体(TribonemaOphiocytium)など様々である。
真正眼点藻綱 Eustigmatophyceae
十数種の小さなグループで、主に淡水産。他の不等毛藻とは異なり唯一クロロフィルcを持たない。強固な細胞壁を持つ不動細胞と、壁を持たない遊走細胞の2型をとり、遊走細胞の前鞭毛に小毛を持つ。名前の由来でもある眼点は、葉緑体内ではなく細胞前部の鞭毛基部付近に存在し、光学顕微鏡でも非常に目立つ。
ペラゴ藻綱 Pelagophyceae
PelagomonasPelagococcusなどの海産外洋性ピコプランクトンから成る綱。鞭毛は退化的で、後鞭毛は完全に欠失して鞭毛根も残っていない。前鞭毛は、保持しているものとこれも失ったものとがあり、鞭毛を全く持たない種もある。
ディクチオカ藻綱 Dictyochophyceae
珪酸質の内骨格を持つグループ。元々は珪酸骨格を持つディクチオカ目のみを含む綱だったが、後に放射総称の体制を持つペディネラ目が追加された。いずれも鞭毛は一本で前鞭毛のみである。ペディネラ目には放射状の器官であるテンタクルを持つものがあり、これが太陽虫の有軸仮足に似る為、Ciliophrysなどはしばしば所属が混乱していた。ちなみに「-phrys」は太陽虫類の属名に良く用いられる語尾である。また、このグループにはアメーバ状の体制を持つRhizochromulinaも含まれる。代表属のDictyochaも長期培養株では珪酸骨格が失われ、アメーバ化してしまう事が知られている。参考:太陽虫珪質鞭毛藻
パルマ藻綱 Parmophyceae
珪酸質の外被を持つ海洋性ピコプランクトン。黄金色藻の鱗片とは異なり、珪藻と同様に単一のパーツからなる外被である。この綱の生物は、培養はもとより分子系統解析も行われておらず、系統的位置は全く不明である。
ピングイオ藻綱 Pinguiophyceae
2002年、河地らにより新設された綱。5属5種、タイプ属は Pinguiochrysis 。高度不飽和脂肪酸を大量に生産する種が含まれる。
ボリド藻綱 Bolidophyceae
海産のピコプランクトンで、1999年、Guillouらにより綱が設立された。1属2種。分子系統解析(18S)では珪藻の姉妹群となる。
シゾクラディア藻綱 Schizocladiophyceae
2003年に設立された。1属1種(Schizocladia ischiensis)のみが記載されている。分子系統解析(18S)では褐藻に近縁。海産で分枝状群体を形成するが、個々の細胞の原形質は連絡しない。また、細胞壁はアルギン酸を多く含み、セルロースを含まない。
クリソメリス藻綱 Chrysomerophyceae
1995年に設立された。およそ8属16種。糸状あるいは葉状の平面的な群体を形成する。個々の細胞の原形質は連絡しない。また、細胞壁はアルギン酸、セルロースともに含まない。
ファエオタムニオン藻綱 Phaeothamniophyceae
樹状の群体を形成する淡水性の藻類。およそ14属30種、代表種は Phaeothamnion confervicola。古くは黄金色藻綱に含められていたが、分子系統解析(18S)により褐藻や黄緑藻に近い事が分かり、1998年、Baileyらにより綱として独立させる意見が提唱された。しかしながら褐藻や黄緑藻を含むこのグループは線引きが微妙であり、どこまでを独立の綱として認めるかについては意見が分かれている。

関連項目

参考文献

  • バイオダイバーシティ・シリーズ(3)藻類の多様性と系統 pp. 197-227. :千原光雄 編 裳華房(1999) ISBN 4-7853-5826-2
  • Graham LE, Wilcox LW. (2000) Algae. Prentice Hall. ISBN 0-13-660333-5
  • Bailey JC, Bidigare RR, Christensen SJ, Andersen RA (1998). “Phaeothamniophyceae classis nova.: a new lineage of chromophytes based upon photosynthetic pigments, rbcL sequence analysis and ultrastructure”. Protist 149: 245-63. 
  • Guillou L, Chretiennot-Dinet MJ, Medlin LK, Claustr H, Goer SL, Vaulot D (1999). “Bolidomonas: A new genus with two species belonging to a new algal class: Bolidophyceae (Heterokonta)”. J Phycol 35: 368-81. 
  • Sekiguchi H, Moriya M, Nakayama T, Inouye I (2002). “Vestigial chloroplasts in heterotrophic stramenopiles Pteridomonas danica and Ciliophrys infusionum (Dictyochophyceae)”. Protist 153 (2): 157-67.  PMID 12125757
  • Kawachi M, Inouye I, Honda D, O'Kelly CJ, Bailey JC,Bidigare RR, Andersen RA (2002). “The Pinguiophyceae classis nova, a new class of photosynthetic stramenopiles whose members produce large amounts of omega-3 fatty acids”. Phycol Res 50 (1): 31. 

外部リンク