岡崎市立中央図書館事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。Point136 (会話 | 投稿記録) による 2010年9月12日 (日) 18:44個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (ロボットによる: <references /> タグの補完。)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

蔵書検索システムに関する事件(岡崎市立中央図書館事件

概要

2010年3月頃、蔵書検索システムにアクセス障害が発生し、利用者の一人が逮捕された。利用者に攻撃の意図はなく、また、根本的な原因がシステムの不具合にあったことから、論議を呼んだ。

事件の経緯

2010年3月頃、市民から同図書館のウェブサイトの蔵書検索システムに対し、接続が出来ないと苦情があり、その後もウェブサイトの閲覧が困難になる事態が相次いだ。同年4月15日に同図書館がサイバー攻撃を受けたとして愛知県警岡崎署被害届を提出し、5月25日にアクセスを行っていた男性が蔵書検索システムに、高頻度のリクエストを故意に送りつけたとして偽計業務妨害容疑で逮捕された。

男性が実際に行っていたのは、蔵書検索システムの使い勝手に満足しなかったため、自分で作成したクローラを実行し、蔵書検索システムからの情報を引き出すことであった。クローラとは、自動的に情報を引き出しデータベースにまとめるプログラムであり、GoogleやYahoo!等の検索エンジンなどでも利用されている。また国立国会図書館でもインターネット資料収集のため、クローラを用いている。[1]

20日間の勾留と取り調べの後、6月14日には、男性の業務妨害の意図が認められないとして起訴猶予処分[2]となったが、一部の人からは長期にわたる勾留の正当性[3]およびそれ以前に逮捕が必要であったのかが疑問視されている。[4]

クローラの動作

産業技術総合研究所、情報セキュリティ研究センター、情報セキュリティー会社など3カ所による解析では男性の作成したクローラに違法性はなく、図書館の蔵書検索システムに不具合が発生していたと回答した。[5]

このクローラは、同時には一回しかリクエストを送らず、受信後に1秒間休んでから次のリクエストを送信していた。これは、応答を待たずに過大なアクセスを行うことで高負荷にさせる攻撃用のプログラムと異なる動作であった。にも関わらずアクセス障害が生じていたのは、蔵書検索システムの不具合により単純な連続アクセスでも高負荷が生じたためであった。しかし愛知県警では逮捕時にはプログラムの意図を把握していなかった。情報セキュリティの専門家である高木浩光は攻撃用のプログラムとは明白に違うプログラムであるとし、捜査に疑問を呈している。[2]

蔵書検索システムの不具合

2005年に導入された図書館の新着図書情報を自動取得可能なプログラムを含んだ三菱電機インフォメーションシステムズ (MDIS) 製のソフトウェアは、1時間に400以上リクエストを送られると他のリクエストの処理が不可能になる不具合を含んでいたため、2010年7月にソフトウェアを大量のリクエストに対応できるよう改修した[6]。なお、2006年の段階でMDISでは新版のソフトウェアを作成し、この不具合を解消していたが、同図書館の蔵書検索サイトは旧版のソフトウェアを利用し続けていた。また旧版のソフトウェアにこのような不具合が存在することはMDISから図書館側には伝えられていなかった。アクセス障害が問題となった直後の2010年3月には、MDISは問題を解析し蔵書検索ソフトウェアの不具合が原因であること、同じソフトウェアを導入した他の図書館でも同様の障害が発生していたことを把握していたが、これらの事実を同図書館側に伝えていなかった。[7]なお、MDISによって同図書館に納品された問題のソフトウェアはクローラを拒否する設定になっているが、これはインターネット資料の収集について定めた国立国会図書館法第25条の3第2項に違反する。[8]

蔵書検索システムの不都合や男性の逮捕に対し、同図書館の館長を務める大羽良は、「図書館には非がなく、男性のプログラムの方法がまずい」[9]、「(男性の自作プログラムに)違法性がないことは知っていたが、図書館に了解を求めることなく、繰り返しアクセスしたことが問題だ」、「図書館側のソフトに不具合はなく、図書館側に責任はない」[10]と発言している。なお本件を調査報道した朝日新聞記者のMDISへの取材には同館長も同席したことがあり、また記者から同館長には繰り返し問題の所在について説明されていた。[11]

脚注

  1. ^ インターネット資料の収集 国立国会図書館
  2. ^ a b なぜ逮捕?ネット・専門家が疑問も 図書館アクセス問題朝日新聞2010年8月21日
  3. ^ Librahack
  4. ^ 弁護士 落合洋司(東京弁護士会)の「日々是好日」2010年6月24日
  5. ^ 図書館HP閲覧不能、サイバー攻撃の容疑者逮捕、だが… 朝日新聞 2010年8月21日
  6. ^ 愛知・岡崎市立中央図書館:大量アクセスでHP閲覧困難、古いソフトが原因 毎日新聞 2010年8月22日
  7. ^ ソフト会社、図書館側に不具合伝えず アクセス障害問題 朝日新聞2010年8月21日
  8. ^ 朝日新聞名古屋本社版2010年8月25日、本事件を調査報道した神田大介によるTwitter上の発言高木浩光@自宅の日記2010年8月11日
  9. ^ 岡崎市立図書館:ソフト古く閲覧困難に HP大量アクセス毎日新聞2010年8月21日
  10. ^ 図書館長「了解求めないアクセスが問題」 HP閲覧不能 朝日新聞2010年8月22日
  11. ^ 本事件を調査報道した神田大介によるTwitter上の発言