日産・パラメディック
日産・パラメディック (PARAMEDIC)は、1993年(平成5年)から日産自動車が製造している高規格準拠救急車である。日本ではトヨタ・ハイメディックに次ぐ2番目に高シェアの高規格救急車である。
初代(1993年 - 1997年)[編集]
日産・パラメディック(初代) | |
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前期型 | |
後期型(エルフOEM版アトラス20) | |
後期型(リア) | |
概要 | |
販売期間 | 1993年 - 1997年 |
ボディ | |
ボディタイプ | 4ドア1ボックス(トラックベース改造車) |
駆動方式 | 後輪駆動/四輪駆動 |
パワートレイン | |
エンジン | FD42型 直列4気筒 OHC 4,214cc |
最高出力 | 125ps |
変速機 | 4速AT |
車両寸法 | |
全長 | 5,510 mm |
全幅 | 1,995 mm |
全高 | 2,770 mm |
車両重量 | 4,540 kg (2WD) |
その他 | |
備考 | スペックはエルフOEM前 |
ベース車 | 日産・アトラス20 |
- 1993年
- アトラス20をベースとして発売。
- 電動格納式防振架台が特徴的な機能として知られた。この装備は後のパラメディックIIと2代目パラメディックにも引き継がれている。
- 初代トヨタ・ハイメディックと同様、第一線から退いて廃車又は海外に譲渡されるなどしており、配備から約30年が経過した2024年現在、日本国内や海外で目にする機会はほぼない状態となっている。
- 1995年
- ベースのアトラス20がいすゞ・エルフのOEM版に変更された。
- この年からいすゞもエルフをベースにした高規格救急車スーパーメディックを発売したが、ベース車両が同じだけで全く別の高規格救急車であり、パラメディック(初代)とは関係はない。
- 1997年末
- 生産終了。
パラメディックII(1994年 - 1997年)[編集]
日産・パラメディックII | |
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概要 | |
販売期間 | 1994年 - 1997年 |
ボディ | |
ボディタイプ | 4ドア1.5ボックス(改造車) |
駆動方式 | 後輪駆動/四輪駆動 |
パワートレイン | |
エンジン | VG30E型 V型6気筒 OHC 2,960cc |
最高出力 | 155ps |
変速機 | 4速AT (E-AT) |
車両寸法 | |
全長 | 5,195 mm |
全幅 | 1,690 mm |
全高 | 2,500 mm |
車両重量 | 2,610 kg (2WD) |
その他 | |
ベース車 | 日産・キャラバン |
- 1994年
- パラメディックでは取り回しが悪いとの声があがることを想定[注釈 1]し、E24型キャラバンをベースにしたパラメディックIIを登場させた。
- 4ナンバーサイズの全幅と短い全長を持ったコンパクトな車体とギリギリのスペースを有効に活用して作られた。
- なおこのサイズはすべての高規格救急車において一番小さく、この記録を抜いた車種はまだ存在していない。
- 大都市を中心に配備されていた。現在は廃車が進み、日本国内で目にする機会は激減している。
- なお、いすゞへ「初代スーパーメディックII(いすゞ・ファーゴ〈2代目〉ベース扱い)」としてOEM供給がされたが、導入は極少数で現在では国内で目にする機会はほぼない状況になっている。
- 製造終了後は同じベースの2B救急車と患者搬送車のみ販売・製造は継続されたが、2001年にE25型キャラバンのフルモデルチェンジを契機に、オーテックジャパンが2B型救急車の開発・製造・発売を終了した[注釈 2][注釈 3]。
- 1997年末
- 生産終了。
2代目(FLGE50/FLWGE50/FPGE50/FPWGE50型 1998年-2017年)[編集]
日産・パラメディック(2代目) FLGE50/FLWGE50/FPGE50/FPWGE50型[1] | |
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前期型(1998年5月-2005年12月) | |
後期型(2006年1月-2017年12月) | |
概要 | |
販売期間 | 1998年5月 - 2017年12月 |
ボディ | |
ボディタイプ | 4ドア1.5ボックス |
駆動方式 | 後輪駆動/四輪駆動 |
パワートレイン | |
エンジン |
VG33E型 3.3L V6 OHC VQ35DE型 V6 3.5L DOHC |
最高出力 |
3.3L 170ps 3.5L 240ps |
変速機 | 4速AT (E-ATx) |
車両寸法 | |
全長 | 5,640 mm |
全幅 | 1,900 mm |
全高 | 2,480 mm |
車両重量 |
2,600 kg (2WD) 2,680 kg (4WD) |
その他 | |
姉妹車 | いすゞ・スーパーメディックII |
- 1998年5月15日
- 初代パラメディックとパラメディックIIを統合する形で登場。初代エルグランドのフロントセクションとBピラーより後ろはE24型キャラバンのリアを流用して製作された。
- その為、この代は初代エルグランドと同じE50型(車両型式では初代エルグランドとは異なる)の系列。
- キャラバンのボディを流用するだけでなく、フロントドアより後ろをエルグランド比で125mm、キャラバン比で210mm拡幅した専用ボディとなっている。
- このボディは「エルグランド ジャンボタクシー」や前席以外のシートが全て取り払われてキャンピングカーのベース車として販売されていた、「エルグランド特装車」のベースにもなったが、パラメディック以外は全て生産終了となった。
- 搭載するエンジンはV型6気筒2カムOHC3274cc VG33E型のみ。
- 駆動方式は、これまでの2WDだけでなく初代には設定されていなかった4WD(オールモード4X4)の両方が設定された。
- エクステリアのデザインは競合他社がワンモーションフォルムを2代目・ハイメディックに用いたのに対し、パラメディックは角型のデザインを用いた。
- いすゞ自動車に「2代目いすゞ・スーパーメディックII(いすゞ・フィリーベース扱い)」としてOEM供給がされたが、2代目も導入は極少数で現在では国内で目にする機会はほぼない状況になっている[注釈 4]。
- 2000年秋頃
- 小改良を実施。フロントタイヤの位置にオーバーフェンダーが装着された。
- 2001年8月6日
- マイナーチェンジによりエンジンをVG33Eから3498ccのVQ35DEに変更[注釈 5]、カーナビゲーションは従来のCDナビゲーションからDVDナビゲーションに変更された。
- また、専用オルタネータ容量を140Ahから150Ahに向上し、電動巻上げ装置付防振ベッドをオプション設定し、仕様の向上を高めた。
- 2002年頃
- いすゞ自動車の国内における乗用車市場撤退や事業の見直しにより、スーパーメディックIIの供給を終了[注釈 6]。
- 2002年5月21日
- エルグランドが2代目モデルチェンジしたが、本車両は継続販売となった。
- 2003年9月17日
- マイナーチェンジにより良ー低排出ガス車に認定される。同時にフロントグリル・リアゲート用のLED方式の点滅警光灯をオプション設定に追加。
- ルーフに貼り付けられる「NISSAN PARAMEDIC」の標準ロゴの文字色を初代から採用している青色から日産自動車のコーポレートカラーである赤色に変更し、ハイメディックとの差を採った(ただし、オプションで青色にも変更可能だった)。
- 2004年9月
- メーカーオプションのカーナビゲーションをE50エルグランドから装備されていたポップアップ型モニター搭載のDVDナビゲーションから据え置き型モニター搭載のHDDナビゲーションに変更される。
- 2005年4月
- オートワークス京都が同社の湘南事業所で製造を開始する。
- 2006年1月
- マイナーチェンジを実施。新灯火器規制などに対応するため、フォグランプ(ビルトインタイプ)とサイドウィンカーランプが追加。
- 同時にフロントヘッドランプ、フロントグリルのデザインをベースとなったE50型エルグランド後期型の顔つきに変更した。
- 2007年9月
- 一部改良。平成17年排出ガス規制適合。
- 2008年7月4日
- 一部改良。平成17年基準排出ガス50%低減レベル、八都県市低公害車指定制度平成17年優低公害車、京阪神七府県市低排出ガス車指定制度の17LEVに適合。
- 2016年2月18日
- 1998年からの長期生産による古い基本設計が影響して同時期に全面改良したハイメディックに比べて、ブレーキ、エンジン、ミッション関連などの走行系不具合によるリコールが度々生じる弊害が出ていたが、2015年12月に北海道でイグニッションキーを回してもエンジンが始動せず、出動ができない重大なトラブル[注釈 7]が発生。
- 後日、日産による調査の結果、運転席側ステップ内に配索されているハーネスの防水処理が不適切なため、靴底等に付着した雪や雨により室内に入った水がステップ部に流れてハーネスの保護カバー内に溜まり、浸水したハーネスのジョイント部が腐食、断線し、ATギアの位置を認識できなくなりエンジンがかからなくなっていた事が判明。
- このことにより日産自動車はエンジンが始動できなくなるおそれがあるとしてパラメディックなど計2車種・ 1931台のリコール[2]を公表した。
- 2017年末
- 日本の自動車市場において、軽自動車のスズキ・ジムニーと並び、1998年の登場から20年間フルモデルチェンジされていない異例の長寿モデルだったが、2017年末で受注・生産を終了し、3代目へバトンタッチされた。
-
2代目車内
3代目(CS8E26型 2018年 - )[編集]
日産・パラメディック(3代目) CS8E26型[3] | |
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前期型(フロント) | |
前期型(リア) | |
中期型(フロント) | |
概要 | |
販売期間 | 2018年11月 - |
ボディ | |
乗車定員 | 8名 |
ボディタイプ | 5ドア1ボックス |
駆動方式 | パートタイム4WD |
パワートレイン | |
エンジン | QR25DE 直列4気筒 DOHC 2,488cc |
最高出力 | 147ps |
変速機 | 5速AT / 7速AT(7M-ATx) |
車両寸法 | |
全長 | 5,330 mm |
全幅 | 1,880 mm |
全高 | 2,490 mm |
車両重量 | 2,770 kg / 2,790 kg |
その他 | |
患者室内長 患者室内幅 患者室内高 |
3,320mm 1,730mm 1,850mm |
- 2017年10月
- 10月25日から開催された『東京モーターショー2017』にて一般公開。
- 3代目はNV350キャラバンのスーパーロング・ワイドボディがベースとなり[4]、パワートレインは直列4気筒・QR25DEレギュラー仕様ガソリンエンジンと四輪駆動、5速AT(5M-ATx)の組み合わせとなる[5]。このため、ベースとなったNV350キャラバンと同じE26型の系列となった(前期型)。
- V6・3.5LのVQ35DEハイオク仕様ガソリンエンジンを搭載していた2代目と比較すると大幅なパワーダウンとなるが、燃費を向上させて運用コストと排出ガスの削減を達成している。動力性能の低下部分はベース車両に対して最終減速比をローギアード化[5]しカバーしている。
- 2代目に比べて全長と全幅が短くなったことで、最小回転半径が6.4mから6.0mとなった。一方で全高は2代目よりも高くなったほか、通路幅を400mm以上確保。
患者室にはプラズマクラスター搭載リアクーラー・リアヒーターや防水シートが標準装備され、付添人が最大3人(乗車定員8名まで[注釈 8])同乗可能になった。 - ヘッドランプ・リアコンビランプはLED化し、常時点灯型のシグネイチャーを採用した。警光灯もオールLED式を引き続き採用し2代目の時から増設要望が多かった車両後部中央に4灯ビルトインタイプLED警光灯[6]をメーカーオプションで増設可能にして周囲の車両からの被視認性を向上させている。
- 2代目では左側(助手席側)のみだったスライドドアは右側(運転席側)にも設けられて両側となり、各種収納庫が設けられた。
- 参考出品車として、消費電力の高い機器を安定して利用する事ができ、停車中のエンジン回転数を抑制して低燃費、低騒音を実現する電気自動車のリーフの技術を応用した1.6kWhのリチウムイオン補助バッテリー搭載タイプが展示されていたが、2022年現在、市販化はまだされていない。
- 2020年4月
- 日本の救急車初となる電動ストレッチャーシステム[7][注釈 9]をオプションとして追加。
- 2022年4月
- ベースのキャラバンが2021年10月にマイナーチェンジ[8]したことに伴い、パラメディックも同様にマイナーチェンジ(中期型)。
- ミッションを5速ATから7速ATに多段化し、動力性能、燃費性能、高速走行時の静粛性を向上させたほか、メーターが5インチTFTディスプレイを備えた新型のファインビジョンメーターになった。
- また、ステアリングが下端部をフラットにした新形状のD型ステアリングに変更された。
- 外観もフロントグリル・バンパーのデザインを刷新し、フロント・リアとステアリングの日産エンブレムを2020年7月に改定された新CIに変更。
- 歩行者の検知が可能な「インテリジェント エマージェンシーブレーキ」と道路周辺の明るさに合わせてハイビームとロービームを自動で切り替えるハイビームアシストが標準装備となり、安全性が向上した。
- 更にトヨタ・ハイメディックの対抗機能として電子シェードや、パトライト社製のパトリンクと類似の機能(ウィンカーなどに連動して赤色警光灯の点滅が変化する機能)を可変ビーコンの名称でオプション追加した。オプションでは大阪サイレン製サイレンアンプとの組み合わせで動作するようになっている[9]。
-
東京モーターショー2017参考出品車
(フロント) -
東京モーターショー2017参考出品車
(車内) -
前期型 フロント
(大阪市消防局) -
前期型 リア
(大阪市消防局)
車名の由来[編集]
「Paramedic」(パラメディック)とは、救急救命士などの(医師を除く)医療従事者のことである(日本では和製英語の「コ・メディカル」が浸透している)。また「Paramedic」は、アメリカ合衆国などでは高度な救命・緊急医療処置が可能である救急隊員(日本でいう救急救命士だが、日本の救急救命士と比べても圧倒的に行える処置が多い)を指し、さらに日本の救急救命士の英語訳に使われる。詳細はパラメディックを参照。
艤装・製造・販売[編集]
- 製造・艤装 - オートワークス京都湘南事業所(神奈川県平塚市、2005年4月より。それ以前はオーテックジャパン)
- 販売 - 日産自動車ディーラー(レッドステージ・ブルーステージ・日産・レッド&ブルーステージ)
脚注[編集]
注釈
- ^ 商用ワンボックスカーベースのトヨタ・ハイメディックに対抗するため
- ^ オーテックジャパンでの製造・販売終了と同時にいすゞにOEM供給していたE24型ファーゴベースの2B型救急車についても販売終了となった。
- ^ その後、日産車体の子会社であるオートワークス京都の手により小型サイズの救急車のコンセプトが引き継がれ、E25型キャラバンをベースとした2B型救急車を発売。2012年に登場したNV350キャラバンについても、引き続き同社の手によって2B型救急車架装が施された上で販売が続いている。
- ^ 静岡市消防局や横浜市消防局などに配備されていた。現在は廃車になったり中古車として海外へ渡っている。
- ^ 使用燃料も無鉛レギュラーガソリンから無鉛プレミアムガソリンに変更された。
- ^ 同時期に、トラックのエルフベースであるスーパーメディック、ベースのエルグランドのOEM車であるフィリーも販売終了となった。
- ^ バッテリーなど車両を点検したが異常が見つからず、車両故障と判断。救急車は他の隊を要請。車両故障に見舞われた救急隊は消防車に乗り現場まで向かった。
- ^ 架装物によって、乗車定員減となる場合がある。
- ^ オプションの電動ストレッチャー仕様を選択したパラメディックは、標準装備の防振架台が装備できない(電動ストレッチャー専用非防振充電架台が標準装備となるため)。現在の高規格準拠救急車標準仕様では防振架台装備が必須なため、この部分が要件に適合しなくなることから種別が2B型救急車(準高規格救急車)となる。
出典
- ^ “パラメディックのリコールについて”. 日産自動車株式会社 (2010年12月17日). 2018年11月26日閲覧。
- ^ “救急車など2千台リコール 日産、発進できず搬送遅れ”. 産経新聞. (2016年2月18日) 2021年1月19日閲覧。
- ^ “パラメディック主要諸元”. 日産自動車株式会社 (2018年11月26日). 2018年11月26日閲覧。
- ^ “日産、高規格救急車「パラメディック」を20年ぶりにフルモデルチェンジへ【東京モーターショー2017】”. オートックワン (2017年10月19日). 2017年12月8日閲覧。
- ^ a b “日産、高規格”救急車”20年ぶりの刷新でハイエース独占市場にリベンジを挑む【東京モーターショー2017】(1/2)”. オートックワン (2017年10月27日). 2017年12月8日閲覧。
- ^ “【キャラバン】新型高規格救急車「 #日産パラメディック 」徹底解剖!”. YouTube(日産自動車株式会社公式チャンネル). 2018年11月9日閲覧。
- ^ (日本語) 【救急車】 #日産パラメディック 電動ストレッチャーシステム 2021年9月19日閲覧。
- ^ 『「キャラバン」ガソリン車をマイナーチェンジ』(プレスリリース)日産自動車株式会社、2021年10月20日 。2022年10月13日閲覧。
- ^ (日本語) 高規格準拠救急車「日産パラメディック」日産車体株式会社 2023年3月19日閲覧。